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『ロルカフェスティバル2025』

2025/10/21

今年9月にスタートし、来年1月まで月に一回開催されるロルカフェスティバル2025「ロルカ、その愛と芸術」(於・エルスール財団記念館〜詩とダンスのミュージアム〜)に、10月11日出演致しました。

フラメンコ舞踊家として長年フラメンコを踊ってきましたが、今回は、ロルカを踊るという、とても難しいテーマに挑戦です。
まず今回取り上げる詩を日本語に訳し、自分の中に落とし込むことから始めました。象徴的に使っている言葉はそのまま訳してもロルカの意図は読み切れないので、日本語訳の書籍を参考にしたり、ネイティヴの方にご教授いただくなど、時間をかけて取り組んでいきました。

 しかし。ロルカを踊るということは、詩の内容を舞踊によって「説明する」ことではないだろう。詩の世界を踊るとは?ある意味ではフラメンコを踊ることに通ずるかも知れない。フラメンコを踊る上でレトラ(歌詞)を知ることは大事だけれど、私達はレトラの意味を説明するように、あるいは説明するために踊るわけではない。「つらい歌詞を歌っているから、つらい顔をしているのか?」などと聞かれると困ってしまう。歌い手はレトラを歌い、レトラを通して歌い手の奥の感覚が引っ張り出されるのは間違いないが、受け取り側がたとえスペイン語を解せずとも、喉から手を入れて内臓を鷲掴みにされるのがカンテなのだ。意味を持つ言葉を通して、意味を超越する世界。

 いやしかし。詩の朗読に踊ることは、フラメンコと同じとは言えない。フラメンコにはコンパスという重要なファクターがある。こちらには言葉のリズムはあっても、コンパスは存在しない。メロディーもない。

 悩みに悩む。日々詩の朗読に踊る。踊る。踊ってみる。撃沈。そしてまた踊る。振付をしようとすると不自然になる。私は残念ながら優れた振付師ではないので、踊りが、詩が、振付を作ると途端に嘘めいたものになる。

そんな日々を経て迎えた当日。ロルカの詩と向き合った時間を信じ、その時に生まれた「何か」を踊るフラメンコ舞踊手であることを信じ、身体が見る風景を動きにしていきました。
それが果たしてどうだったのか、フラメンコであれば、今日はカンテとギターと一体になれたとか、噛み合わなかったとか、実感として分かるのだけれど、今回は見てくださった皆様にゆだねるのみです。何かしら共有出来るものがあればと願うばかりです。

前半はスペイン音楽研究家の濵田吾愛さんの解説があり、野村眞里子さんを聞き手に迎え、ロルカとフラメンコの関わりや、今回私が取り上げた詩について、さすが研究家の視点で詳しく話して下さいました。吾愛さんとは何度も連絡を取り合い、私がどういう詩を踊ろうとしているかを伝え、それに対して深く考察して下さり、しっかりとタッグを組んで当日を迎えたので、お客様から「もっと話が聞きたかった!」という声が届いたのは、なんとも嬉しいことでした。

そして、この日の客席にはなんと!世界的ギタリスト、カニサレスさんのお姿が!!!奥様の小倉真理子さんといらして下さったのです。終演後ご挨拶し、メンバー一同感激至極。私の悪戦苦闘っぷりを温かく見守って下さり、感謝の気持ちでいっぱいです。真理子さんとはなんと30年ぶりの再会。はちきれんばかりの若さに溢れたまりちゃんは、しっとりした大人の女となり、厳しい試験を潜り抜けフラメンコ学の博士課程に進まれるそうで、ご主人共々、ますますフラメンコの世界で活躍されることと思います。

このような素晴らしい機会を与えてくださった主催・エルスールの野村眞里子、解説の濵田吾愛さん、パルマ・ヌディージョで支えてくれた三枝雄輔さん、チェロの下島万乃さん、音響・照明を手がけてくれた千葉真優美さんと井山直子さん、エルスールスタッフの皆様、スペインからの特別なお客様カニサレスご夫妻、そして満員のお客様、本当にありがとうございました。

左から、野村さん、三枝さん、濱田さん、小倉さん、カニサレスさん、大沼、下島さん

30年ぶりの再会、小倉真理子さんと

今回取り上げたロルカの詩

  • Yo vuelvo por mis alas
  • 『Poema del cante jondo』より
    Baladilla de los tres ríos / La guitarra / El paso de la siguiriya / Sorpresa / La soleá / Muerte de la petenera / La Lola / Baile
  • 『La primera canciones』より
    Remansillo / Remanso, canción final  
  • 『Canciones』より
    Canción de jinete

他の演目

*コンパスの旅  三枝雄輔 大沼由紀
ヌディージョとパルマ、サパテアードとマルカール

*即興 下島万乃 大沼由紀
ロルカの「六本の弦」という詩が引用されたプーランクのヴァイオリンソナタ第2楽章からインスパイアされた、チェロと踊りによる完全即興

*Martinete 大沼由紀
1922年、ファリャとロルカが中心となって開催した「カンテ・ホンドコンクール」で優勝したテナサス・デ・モロンのマルティネーテ



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