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現代舞踊協会河上鈴子スペイン舞踊賞/新人賞受賞記念公演
「音の旅人 ペテネラ」回想(前編)

2026/06/22

河上鈴子新人賞受賞の島田純子さんのご尽力により、2025年12月27日富山のオーバードホールにて受賞記念公演が実現した。
半年近く経ってしまったが、たくさんの写真と共に回想していきたいと思う。
全国各地からご来場下さった皆さまには、もう一度あの舞台を思い出していただける時間になれば、そして2021年の初演、2022年(博多/高円寺)の再演にご来場いただいた皆さま、まだご覧になっていらっしゃらない皆さまにも、楽しんでいただけましたら幸いです。

音の旅人を富山で再演するにあたり、大きな問題は作品で重量な役割を果たす2つの切り株をどうするかだった。これはバイラオーラ鈴木真澄氏が20年以上前に阿蘇の小国で購入された本物で、東高円寺にあった真澄氏のスタジオのエントランスに鎮座し、数々のアルティスタがそこに腰をかけた。2021年の初演に向けてのエンサージョでスタジオをお借りした時も、この切り株達が私たちを見守ってくれた。木には精霊が宿っているのだ。

練習を重ねたある日、演出の佐藤浩希氏が「由紀さんがこの切り株の上で足を打っている夢を見た」と言った。そうか、そうだ。切り株達を舞台に連れて行こう!この上で打つ足の音が劇場に響いたら、それがこの作品の幕開けだ。真澄氏にも快諾していただき、作品が息をし始めたのを感じた。

しかしこれが、重い。本当に重い。フラメンコ界屈指の力持ち(!)三枝雄輔さんにお願いして、どうにかこうにか舞台に乗せることが出来たのだった。

翌年の博多公演では、舞台監督から、これと似たものを作る、ただし手軽に送れる重さのものを、という提案をいただき、試作を繰り返し、音も確認しながら、高さをミリ単位で修正をし、なかなかのものが完成、博多へ送った。非常に良く出来たものだったが、やはり本物の切り株とは音も存在感も違う。終演後、潔く破棄することとなった。これを取っておけばよかったと後悔することになるとはつゆほども思わず・・・。

さて富山に向けて、再び切り株問題である。舞台用の作り物はどうかとの提案があり、富山に出向いて確認。子供のバレエなどで使われているそうで、どうもメルヘンチックである。重さがないのでフラメンコ的でない雰囲気を醸し出してしまう。年輪を重ねた本物を舞台に乗せたい。雄輔さんから「自分が持ってかがやき(北陸新幹線)に乗りましょう!」なんて言葉も飛び出し、一同口あんぐり、そして大笑い!いやいや、普通では持ち上げることすら出来ない、あの大きな切り株を2つ抱えて、どうやって乗車する?発想が面白すぎる!でも、ありがたい言葉だった。

その後、梱包さえしてあれば30キロまでは宅急便で送ることが出来ると分かり、これまた雄輔さんの力に頼り、一体どうやってあの変形の超重量級のシロモノをプチプチで包み段ボールで梱包出来たのか、想像しただけで汗が出るが、なんとか富山へ送ることに成功した。めちゃくちゃ大変だった・・・、と思わず彼が呟いた。ごめんね、ほんとにありがとう。

さらにこれに加えて、私が舞台上にシェリー酒の酒樽を置きたいと言って、富山チームを混乱に導いた。以前、舞台のために樽をレンタルしたことがあるので、富山でもそれが出来るかと思ってしまったのだが、そんなもののレンタルは無いと。しかし、ここで諦めないのが島田組と舞台監督小櫻チーム。なんと町中を探し、そしてついに町外れのカフェで使われず野晒しで放置された樽を発見!これが、中に水が溜まっているのか、びくとも動かないし、とにかく汚いと言うので、富山に出向き確認する。

車で街外れまで行くと、ボーンとでっかい樽が現れた。古さも汚れも私はいいと思ったのだが、コンクリートで地面に打ちつけたのかと思うくらい、押しでも引いても動かない。一体どうする?しかし島田さんは「小櫻チームはきっとなんとかしますよ、由紀さん」と胸を張る。

私の思いつきの一言が、皆さまに多大なご迷惑をかけることになり、申し訳なさが募る。しかし舞台に賭ける思いは皆同じ。水が溜まり虫が棲みつき、恐ろしいことになっていた樽を屈強の男達3人が運び、きれいに洗い、そうして舞台に登場した樽は、野晒しの時とは生まれ変わって威風堂々、古びた木のテーブルと椅子、阿蘇の切り株達と相まって、時を経た本物達が舞台という虚構の世界にザラザラとした実在をもたらした。

3年ぶりに再開した切り株達は、断面にヒビが入り、ツヤツヤしていた色はくすみを帯び、足を打てはその音も変わっていた。お互いに年取ったねと語りかける。小国、東京、富山と旅を繰り返したが、もう東京には戻らず、ここ富山で老後を過ごすこととなった。

富山に行けばまた会えるだろうか。
そしていつか、自然に朽ちていくのだろうか。
私はもう少し、旅を続けられるだろうか。

 

ー * ー * ー * ー

 

前置きが長くなった。さて、公演を振り返ってみよう。
(公演タイトルにある「ペテネラ」は、二部に上演された島田純子アレグリア舞踊団公演のため、「音の旅人」と、フィナーレを綴っていく)

1、Romance de la cristiana cautiva
切り株の上でのサパテアードの後、ゆっくりと腰をおろし、レコンキスタの話、そしてロマンセ「囚われのクリスティアーナ」を語り歌う

2、コンパスの旅
雄輔さんの樽でのヌディージョと私のサパテアードによるコンパスの旅

時丹さんが加わり、二人のパルマと私のサパテアードでシギリージャとブレリアの波を起こし、そこを潜り抜ける

3、Serrana
山に辿り着き、美保さんのカンテ、セラーナ(山の唄)が響く

4、チェロとの完全即興
山の唄を身体に入れた音楽家は、どんな音を奏でるだろう
その音を受けた踊り手は、どこに向かうだろう

5、Fantasía por bulería
木の葉がざわめき、虫たちは走り回り、鳥が飛び交い、舞踊家は大きな布で風を起こす
ー「旅のラゴス」(筒井康隆著)のカカラニ(木立の間を縫い、滑るように宙を飛ぶ森の女王)に捧ぐー

ー後編に続くー



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